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何が日本人のうつ病の「原因」なのか

著者:GMCブランド戦略室

日本では、万が一ケガや病気によって働くことができなくなっても、最低限の公的保障制度が整備されているため、すぐに生活できなくなるという心配はありません。実際に、傷病手当金というもがあり、いくつかの条件を満たしていれば、標準報酬の3分の2相当の金額が最長1年6カ月にわたり支給されます。
一方で、米国では、傷病手当金のような公的制度が原則としてありません。その代わりに「働けなくなるリスク」のための保険が普及しています。民間保険会社が取扱う、就業不能保険です。多くの企業が従業員のためにこの保険を採用しています。

ところで、米国の「就業不能保険」と日本の「傷病手当金制度」の支払いの内訳をみると、ある事実に驚かされます。それは、職場における「うつ病」の日米の違いです。
日本の傷病手当金の支払いは、年間約10万件です。支払事由のトップが「うつ」を中心とする精神疾患系の疾患で、全体の25%以上を占めています。(平成25年全国健康保険協会調査)。
一方、米国の就業不能保険の支払内訳を見ると、トップはヘルニア系疾患(背痛、腰痛、リウマチなど)で30%、次に神経性疾患、心臓病、ガンと続きます。なんと精神疾患は5番目で全体の7.7%に過ぎません。実に日米では3倍以上の開きがあります(2014年Council for disability awareness調査)。

また、別の調査データによると、うつ状態の原因について、日本では83%が「仕事上のストレス」と答え、米国では67%が「自分の将来に対する不安」と答えています。また「職場や学校での人間関係」をストレスの原因と答えたのは日本では44%ですが、米国でわずか18%でした。このように、ストレスの原因に日米で大きな違いが見られます。(2012年ニールセン・カンパニー調査)。

米国では、日本以上に上司が大きな人事権を持っているため、社内の人間関係や解雇に対して、より気を遣うはずなのに、なぜ米国人は日本人ほど社内の人間関係に対してストレスを感じないのでしょうか。

この日米サラリーマンのストレスの差は、労働環境の違いに原因があるようです。そのひとつが「転職市場」の存在です。米国人は、ボスとうまくいかなければ、その時点でさっさと転職を考え始めます。相性の悪いボスに気を遣いながら仕事をするよりも、次の職探しに精を出したほうが得策だと考えるのが米国人なのです。
ところが、日本の場合はどうでしょう。相性の悪い上司がいても、気の合わない仲間たちがいても、そう簡単に会社を辞めるわけにはいかない、という感覚を持っている人が大多数です。人間関係のこじれを理由にして転職をする、次の仕事を見つける、ということも決して簡単ではありません。ましてや自分や家族の生活を考えれば、不満があったとしてもリスクを冒して会社を飛び出そうとはしないのが一般的です。

日本では、企業内の配置転換により社内キャリアを積んでいきます。そのため、さまざまな業務は経験するものの特定職務での専門性は身につきにくく、そのことが転職を難しくしている、ともいえます。転職ができないとなると、どうしても会社にしがみつこうとします。そこで上司や周囲に気を遣い、有給休暇も取らずにサービス残業に明け暮れる、ひたすら「頑張らなければ」の日々が続きます。

一方で、米国では、無理をして「働けなくなる」よりも、さっさと転職をして、転職をしながらキャリア形成をしていくことを考える人が多く、転職市場も十分に機能しているため、それが可能な社会を実現しています。

このように「うつ」の発症事由の違いは、日米の雇用環境の差を如実に物語っているのです。
今後「働けなくなる」リスクを軽減するような保険商品やサービスの開発を日本に普及させるとともに、頑張らずに転職を決断させるような環境を整えることがうつ病発生を減らすための得策のひとつといえるでしょう。

 

幻冬舎メディアコンサルティング

奥村 友梨

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